ブランド品の転売を副業として検討する際、多くの人は価格差や販売プラットフォームの使いやすさに注目します。しかし、法的リスクの構造を理解している人は少ないのが現実です。この記事では、実際に逮捕・書類送検された事例を事実ベースで提示し、そこから読み取れる法的リスクの構造を分析します。扱うのは「偽物と知らずに転売した」というケースです。煽りではなく、法律がどう運用されているかという構造の解読に焦点を置きます。読者自身がリスクを評価できる材料を整理することが目的です。
ブランド転売で逮捕された3つの事例
まず、事実を提示します。以下は報道ベースで確認できる実際の逮捕・書類送検事例です。
2026年、埼玉県熊谷市で25歳の会社員の男性が商標法違反の疑いで逮捕されました。海外ブランドの類似商品をフリマサイトに「確実に本物」と出品して販売していたケースです。自宅からは他にも偽ブランド品と思われる時計などが発見されています。本人は「本物だと思って売っていた。生活費に充てるため」と供述しています。
2022年11月、女性が商標法違反で書類送検されました。スターバックスの偽ロゴ入りトートバッグをオンラインで販売していたケースです。海外から偽ブランド品を仕入れて販売しており、本人は「生活費の足しにするために販売していた」と話しています。金額の大小や商品の種類は関係ありません。トートバッグ程度の商品でも書類送検に至っています。
2024年6月、愛媛県松山市で中国籍の女性に懲役1年6月(執行猶予3年)、罰金100万円の有罪判決が言い渡されました。フリマアプリで偽ブランド品を販売していたケースで、偽造品1,368点が没収されています。この事例は書類送検や逮捕で終わらず、有罪判決まで至った点で重要です。
これら3つの事例に共通するのは、販売者が「副業感覚」または「生活費の足し」として始めた点です。組織的な密輸や大規模転売ではなく、個人がフリマアプリやオンラインで小規模に販売していた事例です。しかし、いずれも逮捕または書類送検、そして有罪判決に至っています。この事実から読み取るべきは、販売規模や動機の軽さと法的責任の発生は無関係だという構造です。
「知らなかった」が通用しない法的構造
次に、法律の構造を分析します。
商標法違反で立件されるには「故意」が必要です。つまり、偽物だと知って販売していた場合に罪が成立します。ただし、ここで重要なのは「未必の故意」という概念です。これは「偽物かもしれないと思いながら販売した」場合も故意とみなされる法的解釈です。
具体的には以下の条件が揃うと、未必の故意が認定されやすくなります。仕入れ値が市場価格と比較して不自然に安い。仕入れ元が海外の不明なルートである。真贋確認の手段を講じていない。複数の商品を継続的に販売している。
埼玉県の25歳会社員の事例を構造的に見ると、本人は「本物だと思って売っていた」と供述していますが、逮捕に至っています。この背景には、仕入れルートの信頼性を確認していなかった点、複数の偽物が自宅から発見された点があります。法的には「偽物かもしれないという認識を持ちながら販売を続けた」と判断された可能性が高いです。
スターバックス偽ロゴ入りトートバッグの事例も同様です。正規のスターバックスが販売していない商品を海外から仕入れて販売していた時点で、「偽物かもしれない」という認識を持つべき状況にあったと評価されたと考えられます。トートバッグという比較的少額の商品であっても、この構造は変わりません。
整理すると、販売者の主観として「知らなかった」と主張しても、客観的な状況から「知っているべきだった」「知らないはずがない」と判断されれば、商標法違反は成立します。仕入れルートの信頼性を自分で検証できない状態でブランド品を扱うことは、法的リスクを自ら引き受けることを意味します。
商標法違反の刑事罰と有罪判決の現実
ここで法的リスクの重さを確認します。
商標法違反の直接侵害、つまり偽ブランド品の販売の刑事罰は、10年以下の拘禁刑もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科です(商標法78条)。これは懲役刑が実刑として科される可能性がある犯罪類型です。愛媛県の事例では懲役1年6月の判決が出ています。執行猶予がついたため刑務所には入っていませんが、有罪判決が確定すれば前科がつきます。罰金100万円も併科されています。
さらに、偽物を「本物」と偽って販売した場合、詐欺罪が成立する可能性もあります。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑です。商標法違反と併合罪として処理されれば、最大15年相当まで刑が加重される可能性があります。
フリマアプリという身近なプラットフォームで、副業感覚で始めた転売行為が、10年以下の拘禁刑という刑事罰の対象になる構造がここにあります。1,368点もの偽造品が没収された愛媛県の事例は、明らかに「不用品販売」の範囲を超えています。反復継続的に偽ブランド品を販売していたと評価され、有罪判決に至っています。
フリマアプリという身近な場所に潜む構造的リスク
ここで、フリマアプリ転売の構造的なリスクを分析します。
フリマアプリは個人間取引を前提としたプラットフォームです。そのため、利用者の多くは「個人が不用品を売っている」という認識を持っています。しかし、法律はプラットフォームの種類で適用が変わるわけではありません。フリマアプリで販売しようと、実店舗で販売しようと、商標法違反の成立要件は同じです。
プラットフォームが身近であることと、法的リスクの軽さは無関係です。むしろ、フリマアプリは以下の構造的なリスクを持っています。出品者の情報が購入者に開示されるため、偽物を販売した場合に被害届が出やすい。プラットフォーム側が取引履歴を保持しているため、警察の捜査対象になりやすい。偽物の通報機能があり、ブランド権利者が監視している。
実際、フリマアプリ側も出品規制を強化しており、偽ブランド品の疑いがある商品はアカウント停止や売上金凍結の対象になります。刑事罰に至る前に、プラットフォームでの活動自体が制限される可能性があります。これは法的リスクとは別の、ビジネスの継続性に関わるリスクです。
無在庫転売という手法も構造的なリスクを持っています。無在庫転売は商品を自分の目で確認せず発送するため、偽物を扱ってしまうリスクが構造的に高い仕組みです。無在庫転売自体は違法ではありませんが、偽物を扱った場合の責任は販売者に帰属します。仕入れルートの信頼性を自分で検証できない状態でブランド品を扱うことは、法的リスクを自ら引き受けることになります。FCやコンサルのサポートがあっても、法的責任は販売者個人に帰属する構造は変わりません。
本物のブランド品でも違法になるケース
ここで重要な論点を追加します。偽物ではなく、本物のブランド品を転売する場合でも、法的リスクは存在します。
古物営業法という法律があります。この法律では、営利目的で反復継続的に中古品を売買する場合、古物商許可を取得する義務があります。「新品として購入した商品」でも、一度消費者の手に渡れば法律上は「古物」に該当します。
2021年、アパレルブランドの社員が古物営業法違反で書類送検された事例があります。古物商許可を取得せずに、ブランド品をフリマアプリやネットオークションで反復継続的に転売していたケースです。扱っていたのは本物のブランド品です。それでも書類送検されています。
古物営業法違反の刑事罰は、3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です(古物営業法31条)。商標法違反より刑は軽いですが、前科がつく点は同じです。
整理すると、ブランド転売には以下の2つの法的リスクが構造的に存在します。偽物を扱った場合は商標法違反として10年以下の拘禁刑。本物を許可なく継続的に転売した場合は古物営業法違反として3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。「本物だけを扱えば安全」という認識は、法的には成立しません。
ブランド物販という領域が持つ構造的な難しさ
最後に、この領域全体の構造を評価します。
ブランド転売を副業として成立させるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。仕入れルートの信頼性を自分で検証できる体制。真贋判定の技術と知識。古物商許可の取得(反復継続する場合)。確定申告の準備(年間所得20万円超の場合)。商標法、古物営業法、関税法の理解。
これらの条件を満たさずに始めた場合、以下のリスクに直面します。偽物を扱ってしまい商標法違反で逮捕される。古物商許可なしで継続販売し古物営業法違反で書類送検される。確定申告を怠り脱税として追及される。フリマアプリのアカウント停止や売上金凍結。
商標法の運用は年々厳格化が進んでいます。フリマアプリ側も出品規制を強化しており、以前より法的リスクは高まっています。逮捕された人たちの多くは、自分が法律を犯しているという認識を持っていませんでした。しかし、認識の有無と法的責任の発生は別の問題です。
転売ビジネスが拡大すると税務リスクも拡大します。2026年7月、東京でブランド品買取販売会社の元代表が所得税法違反で逮捕されました。約52億円の株売却益を隠し、約7億円を脱税した疑いです。副業規模でも年間所得20万円超で確定申告義務が発生します。規模が大きくなれば東京国税局の査察対象にもなりうる構造です。
ブランド物販は、仕入れルートの信頼性、真贋判定の体制、法的知識、税務処理のすべてを自分でカバーする前提がなければ「気軽な副業」とは呼べない領域です。同じ仕入れルートを複数の販売者が共有する構造では、価格競争が激化して利益率が低下します。法的リスクを引き受けながら、利益率の低下にも直面する構造がここにあります。
この構造を理解したうえで、自分がそのリスクを引き受けられるかどうかを判断することが、最も合理的なアプローチではないでしょうか。

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